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オーストラリアにおける大学図書館事情

西山常清

 平成10年1月26日から2月5日にかけて、オーストラリアにおける幅広い生涯学習コースを持つ大学における情報リテラシー教育への図書館支援の実状視察ということで、シドニー工科大学の図書館を訪問する機会を得ることができた。その際に、オーストラリアの代表的な大規模大学である、シドニー大学及びメルボルン大学の図書館も訪問することができた。それぞれの図書館において、主要な施設を見学するとともに、図書館運営に携わる方々の貴重な話を聞くことができた。

 なお、この実状視察は、横浜国立大学教育改善推進費(学長裁量経費)の一つである、国外派遣事業によるものであり、関口欣也前館長の指導のもとに行った。このような、貴重な機会を与えられたことに心から感謝している。

 各図書館を見学して全般的に感じたことは、施設・設備面では、各大学の規模に係わらず我が国立大学との大きな差異を感じなっかったが、図書館のスタッフの多さ及びそれを背景にした利用者へのサービスの充実振りには驚かされた。

 利用者サービスの一つである利用者教育については、訪問した各図書館ともコンピュータシステムを利用した高度な情報化が進展し、図書館の利用はコンピュータなしでは考えられない状況となっており、その重要性は益々増している。特にシドニー工科大学の図書館による情報リテラシー教育の充実振りには目を見張るものがあった。

 シドニー工科大学は、オーストラリアにおいては、中規模大学に位置し、創立が1988年と新しく、蔵書数約70万冊(年間購入費の75%は雑誌)、学部のコースが80以上、大学院のコースが200以上あり、幅広い生涯学習コースをもち、30%以上は、英語を母国語としない学生によって占められている。図書館職員は約120名、その他数十名の学生アルバイトを有し、利用対象者数は、学生約15,000人、院生約6,000人である。

 シドニー工科大学の図書館による情報リテラシー教育への支援は、様々な背景をもった学生に、より質の高い教育機会をより多くの学生に提供するため、図書館の利用のみならず全学にその有用性を認められ、有意義な学生生活を送る上でも大きな役割を果たしているとのことである。図書館の利用という立場からみてみると、その教育プログラムは、基本的な図書館の利用方法から、各種データベース・ソフトウェアの使い方と幅広く設定され、新入生はもとより院生以上の研究者をも対象としている。特に新入生に対しては、基本的な図書館利用のトレーニング機会をできるだけ多く与え、図書館を有効活用できるよう、1回当たり、約40名を上限として毎週開催されている。このトレーニングシステムは、年間、延約1万人程度の学生が受講し、希望者がたとえ1名であっても常に応じられるというきめ細かいものであると同時に、より質の高い教育機会をより多くの学生に提供する意味から重要な役割を担っている。また、院生以上の研究者に対しては、研究者の要望に沿ったプログラムを2週間以内に作成し、スタッフが1対1で対応し受講した研究者から高い評価を受けているとのことであった。

 訪問した大学のいずれも、学習図書館としてあるいは研究図書館として、利用者へレベルの高いサービスを提供しており、またそれを可能ならしめる多くのスタッフを有している。また、利用にあっては、各図書館とも資料が、効果的且つ公平に活用されるようにと、利用者に対しては、利用規則の遵守が求められており、違反すると、厳しいペナルティが課される。例えば、時間単位で貸し出しされる指定図書の返却が遅延した場合、単位時間当たり何ドルと加算方式で罰金が課せられる。一定額を超えても支払いがなされない場合は、貸出が停止されることはもちろん、成績表の交付も受けられないことになる。罰金の支払いがない場合は各大学とも卒業させず、メルボルン大学などでは、卒業を控えた学生が支払いを怠ったため、加算された罰金が何百ドルにも達し、父兄同伴のうえクレジットカードで支払いする光景がしばしば見受けられるとのことである。これによって得た収入は、結構大きな額になり各大学とも資料の購入等に使われ、常に利用者へ還元されるシステムとなっている。

 紙面の都合で紹介できなかったが、今回の実状視察において、大学内における館長のリーダーシップの重要性、各部局及び大学当局の図書館に対する協力体制、全オーストラリアの大学図書館が参画しているCAUL (Council of Australian University Librarian) の果たしている役割等多くの示唆を受けることができた。特に、CAUL については、海外出版業者との交渉(地理的要因もさることながら、図書・雑誌の多くを海外から購入しているの実状から重要)、商用データベースの共同利用による提供、電子ドキュメントデリバリー及び電子メディア資料の収集など新しいサービスの共同開発等、大学図書館になくてはならない重要な役割を果たしている。(CAULの詳しい活動状況等については、URL=http:/www.anu.edu.au/caul/を是非参照されたい。)

 参考までに、各大学図書館のホームページを掲載しておく。

University of Technology, Sydney: URL= http://www.lib.uts.edu.au/

The University of Sydney : URL= http://www.library.usyd.edu.au/

The University of Melbourne : URL= http://www.unimelb.edu.au/

<附属図書館図書館専門員 にしやま つねきよ>


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