附属図書館トップ図書館紹介図書館報図書館報総目次


大英図書館見学記

関口 欣也    

1996年3月9日午後、私は妻・長女と共に大英図書館にゆき、建築空間として美事なドームの円形閲覧室と驚くべきライブラリー・ミューゼアムをみた。この3月のイングランド旅行の主目的はロマネスク・ゴシックの大聖堂と中世のマーナーハウス・フォ ークハウスを見ることで、ロンドン見学は対象をで きるだけ選択し、すでに本学附属図書館長に内定し ていたため、19世紀中期の代表的イギリス建築、大英博物館・図書館(サー・ロバートスマーク・弟シドニイ設計)を訪れたのである。博物館・図書館の 外観はよく知られているようにギリシア・イオニア式神殿形の左右に吹放列柱の長い翼屋を挟んだ形式 になり、19世紀のイオニア・リバイバルとしては最 大級の建築である。このうち図書館の建築は中央部奥および中庭円形閲覧室と右翼屋であるから、全体の中で相当のウェイトを占めることが知られ、中庭の円形閲覧室を除き、博物館とも自由に無料で観覧でき、内外とも夥しい見学者であった。さて私達は正面ホール奥の小さな受付室で担当の小柄な元気の よい女性に名刺と本学図書館長の紹介状を出し、来意をつげた所、今日は曜日の関係で円形閲覧室の見 学はできないが、クイックリィに通りぬけたらよいでしょうと扉を開けてくれた。

ドーム天井の円形閲覧室は静寂で、高く広々とし、とても気持ちがよかった。円形外壁は三層の書棚で、3万冊を架蔵し、直径内法42メートル、リブの入った空色っぽいドームの高さ32メートルである。閲 覧室中央には長く比較的幅の狭いカウンターがあり、 衝立付ライティングビュロー式の閲覧机が放射状に配列され、机の天板は厚く立派であった。席数は 375 で、閲覧者は左の方に多かったが、中にはノー ト形パソコンを持込んでいる人もいた。閲覧利用者 は大学の教授・講師、上級学位の学生、報道関係者、作家に制限されているから、ほぼ日本の国立国会図 書館の一般研究室に似ている。なお、ここを利用し た有名人にはトマス・ハーディ、アーノルド・ベネ ット、バーナード・ショウ、カール・マルクス、レーニンなどがあげられる。ごく短時間であったが円形閲覧室の重厚な書架と上方採光の空間構成に満足した。なお私の学位論文(中世禅宗様建築の研究、日本建築学会賞、英文梗概30ページ付)を寄贈したが、3月15日、インド・オリエント部門に入れた旨を併記した同部門館長の礼状が届いた。

円形閲覧室一見の後、長大な右翼のミューゼアム・ライブラリーを見た。多数の観覧者があり、壁の書架には背皮装金文字の大形の本がぎっしり詰って、家具調度としても見応えのある脚付の平面型ガラスケースに古写本、手稿類が多数展覧されていた。まず驚いたのはマグナカルタ四部写本のうち一部が置かれ、シェークスピア関係は初版本であった。文学 者ではC・ディッケンズ、S・ブロンテ、E・ブロンテ、V・ウルフ等の手稿類、その字体は整ったものが多く、全文花文字と見まがうものもあった。ある所にはフックあてニュートンの書簡があり、天球 儀のような挿図が丁寧にかかれていたが、子供等の 中にはニュートンの手稿を直接みて発奮するものも いるにちがいない。また端の方の一画に日本の資料 を展示したケースがあった。絵巻もあって、その画品はどうかと思ったが、折装の古い写本があり、日本の図書の伝統を改めて回想した。

大英図書館は円形閲覧室、ブルームズベリーの写本研究室・地図図書室・政府刊行物部門各専門閲覧室、コリンデール新聞図書館、ウォタールー・インド東洋図書館、オールドウィッチ科学関係情報サービス図書館があり、全部で 1,300万冊の蔵書と12万 点の稿本、マイクロに納めた 350万点の文書がある。大英図書館はより広く、蔵書の保管状態を更に重視 したセント・パンクラスの新館に1996年すべて移転 する予定で、この時円形閲覧室は大英博物館の管轄になる予定という。なおコンビュータ化関係について見る余裕はなく、大英図書館新館の設計概要を是非見たいと思っている。

画像(ミヒャエル・ブラウン『図書館』より)

<附属図書館長・工学部教授 せきぐち きんや>


附属図書館トップ図書館紹介図書館報図書館報総目次