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資料紹介

『21世紀に伝える日本建築画像大系』

工学部建設学科 佐土原 聡

建築教育は,建築のつくり手を育てるのみならず,住まい手,多くの部分が建築で構成される集落や都市空間で活動する人々,将来の文化遺産となる建築をつくり残していく人々など,建築をとりまくさまざまな人を育てる大きな意義を持っている。そこでは建築の全体像をわかりやすく伝えることが必要で,映像は特に役に立つ媒体である。ここに紹介する日本建築画像大系は.学生から社会人まで幅広い人々が建築への理解を深めて行けるようにつくられた映像による建築の大系である。図書館よりこの大系の紹介原稿の依頼を受けたものの,私白身,附属図書館運営委員となって,大学図書館におけるニューメディアの役割に関心を持ち始めたばかりであり,ビデオという媒体の持つ意味を合めた本大系の紹介は荷が重いと感じていた。幸い,この大系の企画・作成を行ったグループによる作成過程での議論を振り返ったシンポジウムの開催記録を入手できたので,それを用いて,大系がつくられた背景,全体の内容構成についての紹介をさせていただく。

日本建築画像大系は単行本「21世紀建築のシナリオ」(尾島俊雄編著,日本放送出版協会,昭和60年2月)を映像化する形でつくられた。企画・監修を行ったのは早稲田大学建築学科の尾島俊雄教授である。大系25巻のうちの17巻が完成した昭和63年ll月l日に「シンポジウム日本建築画像大系ビデオによる建築教育の可能性」が束京の私学会館にて閲かれた。講演者として,尾島俊雄氏,プロジェクトの企画・立案の幹事で(株)ジェス取締役社長の安孫子義彦氏,大系25巻のうちの1巻「地震と建物の揺れ方」の原作者で早稲田大学理工学研究所教授の風間了氏が参加した。以下に講演内容を抜粋して紹介する。

1)尾島俊雄氏:「日本建築画像大系プロジェクトの研究開発の位置づけ」

………大学の最も重要な役剖は「教育する」ことであり,そのあり方に関して模索した結果として,ビデオの有用性が建築の分野において認められ始め,この度ようやくご報告できる段階に至った。計画を始めて12年になるわけですが,その目標をどこに置いているかといいますと,1990年までに50本のビデオを完成させたい。建築の専門基礎としての一般教育的なものが50本あれば,建築の文化とはどういうものなのかの概要がつかめる。そして,1995年には100本に伸ばしたい。これにより建築の基礎あるいは専門教育のファンダメンタルな部分はほぼ押さえられるのではないかと考えたわけです。しかし,この100本という数はあくまでこちらの実現可能な数であり,現在建築に関して出ている多くの資料を集めるならば,1000本の枠があれば日本の建築文化を語るに足るようなものができるのではないかと思います。1000本というのは,1本15分と考え,この15分が,スライドにしますと1000枚程度のボリュームですから,全体で百万枚のスライドとなり,映像の伝える力は大変なものですから,このレベルで日本の20世紀の建築の科学なり,文化なりを後世に残せるのではないかと考えたのです。

………この研究開発のソフト面でのきっかけとしては,彰国社で新建築学大系を編集した際に,私も編集委員の一人として約10年間,担当の10巻の編集作業に携わる中で大変勉強させていただいたわけですが,今の文字離れの激しい学生達がこの新しい大系を涜みこなすのは大変であろうというのが実感でした。もちろん,これは学問の筋として必要不可欠な記録であるわけです。旧大系に新建築学大系を加えて40年の歴史を持つわけですけれども,それをこの映像の時代に,何とか映像レベルで大系化できないかということを考えていました。

………情報伝達の方法としては,映像,肖像で伝えるICON,出版物すなわち文字で伝えるSYMBOL,コンピュータのデジタルで伝えるINDEXの3つの形態があるわけです。その中で建築においてはICONによる情報伝達が重要であり,それは時代の要求にも適合しているのではないか。

2)安孫子義彦:「日本建築画像大系の企画・テーマの設定にっいて,社会的立場から映像教材の意義について」

……どういうテーマでこの画像人系というものを作るかということが,最初の取っ掛かりであった。… 建築の分野では非常に価値観が多様化していまして,受け手もまた多様な価他観を持ち始め,そういった人々の幕し方,建物の使い方,使われ方,見せ方,考え方,それから素材の持つ本来的特性等,言葉ではなかなか伝えきれないものがたくさんあります。そういったことに対して,何とか画像で具体的に伝えられないだろうかという主旨のもと,何とか設定されたテーマの変更を行ってまいりました。………更に議論を重ね,3回目では,「作り方,建築,素材,建築技術,建設業,その他」といった形の6テーマになって参りました。

………次に,これは利用者として誰をその対象としているのかということについてお話ししたいと思います。約6つの使い方を想定してみました。一つは、当然でございますが,大学あるいは専門学校等の授業,講演における補助教材として使っていく。それから,社員や系列会社社員の教育のための補助教材としての使用。3番目には,施主や納入先への建築技術等を伝えるための説明資料,いわゆる企業活動における営業用資料として使用できないか。4番目に,海外における業務の説明材料,つまり日本の建築と言うものを海外にどう紹介するかという用途。その他,カルチャーセンターなどでの利用。更に,個別学習,自宅学習の教材としての利用。この様に,どういう対象のために編集すべきか,どこにその販路が切り開けるかといった検討を重ねた結果として,おそらく前述のような6とおり程度の使い方があるのではないかと想定した。……

では,最後に映像教材の意義を何点か挙げておきたい。一つには,何かを教える時に,単に知識や技術を教えるだけではなく,何らかの価値観や文化性をも伝えなければならないときには,やはり,画像でなければ伝えきれないのではないかということ。それから,先ほど中し上げた設備というものは,外からみても分からないわけで,内部の流れや変化と言ったものを伝えるにはやはり映像が適しているのではないでしょうか。同時に,ビデオというものは全体から部分へ大変すばやく話が展開でき,時問のかかる話を一時にできる。最後に,文章に比して,時問の経過によって,そこから感じ取れるものの差異が少ないのではないでしょうか。この様に種々の面かその意義が認められる故に,映像教材の可能性は,今後,更に期待できるものと考えます。

3)風間了氏:「建築教育における映像教材の可能性について,日本建築画像大系の原作者として映像教材の製作について」

……今度は振動のビデオを作りましたが,建物の設計で最も間題となる加速度の感覚は決してわれわれ実生活の感覚ではありません。その辺を視覚に訴えること,ビデオが美しいなどの視覚で内容が流されないようにしようと,本質的なところをとにかく簡単に分かっていただこうというような主旨でビデオを作成致しました。………本を読む前の一つの助けという感じの利用のしかたを狙っております。

以上の内容から,この日本建築画像大系製作の意図をくみとっていただけたものと思う。最後に全25巻の構成について紹介する。

  1. 建築の見方・考え方(5巻):日本の住文化,地域文化財保存.都市の構成を支えている建築の再生などのテーマを扱っている。

  2. 建築の素材(5巻):建築に使われる木,コンクリート,鉄,アルミニウム,ガラスという5種類の素材をとりあげて,それぞれの素材を生かした空間づくりについて実例を示しながら考え方を解説。

  3. 建築のつくり方(6巻):建築の様式,コンピュータを活用した設計,施工の現場という建築づくりのプロセスの解説,および市民ホール,ホテル,オフィスをとりあげて設計思想の解説をしている。

  4. 建築の技術(5巻):建築を支えている技術的側面である設備,構造,工事管理,大規模開発の基盤整備について解説。

  5. 建築をつくる人々:建築のつくり手である設計者,職人,建設業者のものづくりの考え方,設計者を公募または指名された人の作品を選んで決める設計競技の意義についても解説。

1巻15分で中身が濃く,平易なことばを用いて解説されている。建築に興味のある方にはどなたでも見ていただける内容である。本大系によって.多くの面からの建築への理解を深められることを期待している。

(引用文献)早稲田大学理工学研究所:日本建築画像大系・理工学部創設80周年記念シンポジウム記録集;昭和63年ll月1日

<さどはら さとし 工学部建設学科助教授>


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