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直面する諸問題と白己点検

附属図書館長 腰原久雄

現在,当館は蔵書数が96万冊を超え,来年度中に100万冊の大台に達することは確実である。雑誌(逐次刊行物)を含めて所蔵資料の規模は国立大学平均や同規模大学に比べてかなり大きなものになっている。質の点でも前身校のそれを引き継いだこと,学部数が少なく専門領域が限定されていることなどにより充実したものであるといえる。年々の資料増加率も国立大学中,高水準にある。

一方,建物についてみても,昭和49年(中央館1号館,社会科学系研究図書館),54年(理工系研究図書館),60年(中央館2号館)建築と比較的新しい。

このように,一見充実しているように見えるが.「図書館が必ずしも利用者の二一ズに応えていない」,「職員が日常業務に逐われ新たな試みをする余地がない」など多くの不満を,利用者,職員双方から聞く。

そこで,サービスを提供する側で抱える悩み間題を(1)職員,(2)財政,(3)施設の3つの面で述べてみよう。

(1)職員数について

現在当館の職員は35名(専任職員21名,臨時職員14名,フルタイム換算31.8名)である。国立大学中でみると,蔵書数,奉仕対象者数(学生数+全学職員数)など図書館の規模に比べて相対的に職員数,とりわけ専任職員定数が少ない。職員当りの学生数は全国立大学平均の2倍を超え,蔵書数は1.5倍に達する状態にある。職員数が少ないことは職員に過重な負担を強いるばかりでなく,利用者へのサービス向上,研修などを通じての職員の質の向上に大きな隘路となっている。

例えば,現在,利用者は蔵書検索に3つの異なる手段にアクセスせざるをえない。コンピュータ検索システムに統一・一元化することによって,これを解消することができるが,それには充分な準備と人手を必要とする。職員の不足のためこの問題は検討にさえ入れないでいる。貴重な蔵書の有効利用と利用者の便宜は,これによって妨げられているのである。

また,専任職員定数が少ないことは日常業務消化のための臨時職員に対する賃金の膨張を生み財政的な圧迫となる。

なお,職員過少は,図書館統合時のいきさつ,その後の学生数定員の増加,事務系職員定数削減計画が各部局一律に実施されていることなどの原因によると思われる。

(2)財政について

平成3年度の図書館経常経費(資料費+運営費)は3億6千万円強で,4学部大学中では一橋大学,東京工業大学に次いで大きな規模になっている。大学総経費に占める資料費の割合は他国立大学に比べて高く,本学が図書館,とりわけ資料の充実に財政面から努力していることを表わしている。

しかし一方,運営費についてみると,大学総経費に占める割合が小さく,図書館に対する当初予算の学内配分はここ十年近くほとんど据え置かれたままで,充分に配慮されているとは言いがたい。さらに,非常勤職員の賃金,光熱水料,電算機借用料の必需的な経費(固定的経費)が運営費中大きな比重を占め,年々その比重が増している。本年度の当初予算では,ついに備品費は皆無,消耗品費は前年度の半額という異常な予算しか組めない事態になっている。その結果,新たなサービスや事業を行なおうにもその財政的な余地がほとんどなくなっている状態である。

このように同定的経費が大きくなるのは学内配分が据え置かれていること,専任職員定数が少ないこと,学生数に見合う閲覧スペースの維持に努力し,時間外開館を長くしていることなどによる。

(3)施設について

建物総面積は奉仕対象者数,蔵書数を積算根拠とするため,現在,10,482mで規模としては同ランクの国立大学に比べて広いといえよう。特に他国立大学図書館に比べて閲覧スペースを中心とするサービススペースに重点を置いた利用をしている。とはいえ閲覧座席数は854席で学生数と比ベて充分なものとは言えない。

一方,書庫スペースは狭隘で,計算上の収容可能冊数は84万冊で,新規受入れ資料は無論のこと現有資料の収容が困難な状態にあり,床に山積みの資料が溢れている部分がある。建物面積の不足だけではなく,一部施設・設備の経年変化によって,漏水,排水不備などの間題が頻発し蔵書の保存に腐心ししている。

従来の機能に加えてニュー・メディアの普及,身障者の受入れ,留学生の増加等に対処し,新たな役割を果たしていくには,既存のスペースの有効利用を図ることと並んで,建物の拡充が不可欠である。また,限定された職員,財政状況の下では,ブックディテクションの採用を始めとする省力化,合理化のための設備充実が必要である。

なお,現在当館の基準面積(資格面積)は12,540mであり,保有面積との間に2,519m差があり,増築要求が可能である。

以上のような,サービス提供側の抱える間題を解消するための努力が従来からなされてきた。

例えば,昭和60年に開発に着手し,62年に導入した電算機が本格的に稼働,現在ほとんどすべての受人れ資料を購入から登録,貸出まで電算機処理するに至っており,事務の合理化,省力化が図られた。また,書庫不足で資料が山積みされる状況にある社会科学系研究図書館について,限られたスペースと職員の有効利用を図り,終局的に利用者の便宜を増進するために,社会科学系の雑誌等を一元的に配置,管理し,保存書庫スペースを確保しようと「社会科学系研究図書館将来計画」を平成2年度に策定し,本年度からその具体化に取り組んでいる。

しかし,問題はいよいよ深刻化し,個別的な対応や自助努力だけでは,その解決が困難になってきた。そこで,図書館の執行部門である事務部門では,附属図書館の理念・目的の再確認を行い,図書館サービス(利用者教育,広報・広聴活動,電算化,学術情報ネットワークへの対応を含む。),施設・設備等(資料,建物・設備,経費,職員を含む。)について現状分析し課題を明らかにするため,「附属図書館の現状と課題検討会」を発足し討議を重ねてきた。その成果は近く文書化する予定である。

この検討会は図書館の現状を冷静に把握し,二一ズを確認しつつ図書館に課せられた使命を達成するために解決すべき事項を明確,かつ体系的に整理しそれを着実に解決していくことが不可欠になったという認識に基づいて執行部門として設けたものである。しかし,この検討会で明らかになった課題の解決には,利用者がどのような優先順位を以て二一ズを考えているのか確認しなければならない事項,全学的な理解と協力の下で全学的合意を得て学内諸機関との関係変更をせざるをえない事項,つまり,執行部門だけで解決しがたい事柄が少なくない。

大学附属図書館が大学の構成員に対するサービスの提供を一次的な使命とし,全学の協力の下にはじめて運営できることを考えればこのことは当然のことである。

また,この検討会はサービス提供の主体である事務部のみで構成されたものであるから自ずから検討範囲に限界がある。図書館を取り巻く現行制度,組織についての検討では,意志決定機関の附属図書館運営委員会に委ねられるべき部分が多い。それだけでなく,利用者であり,学内各部局に基盤を置く委員から成る運営委員会と執行機関が共通の現状認識と将来展望を持つことによってはじめて,課題の解決の具体的な糸口をみつけることができるであろう。現在こうした考えにたって,意思決定機関としての運営委員会と執行機関としての事務部が共同して,附属図書館の目的を達成し,その機能の充実を図る将来計画策定に資するため,現状を自ら点検する委員会を設置することについて運営委員会に検討をお願いしている。

その委員会では,事務部の検討会で検討している諸事項のほか、附属図書館の任務(大学図書館の任務,学内諸機関との任務分担,中央館・研究図書館の機能,図書館の開放と学外諸機関との協力関係等),組織・運営体制(運営委員会と事務部との関係,運営委員会の運営,学内諸機関との関係,館長の機能,選出の仕方,事務組織の在り方,諸規程等)等広く図書館に関わる間題について議論してもらいたいものと思っている。

具体的な間題の解決を期待することはもちろんであるが,しばしば陥りがちな利用者とサービス提供者,図書館と他部局との認識のギャップをこうした機会を通して埋めることができれば,それだけでも意味のあることだと思う。


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