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新大陸関係地形図集成について

矢ヶ崎典隆
平成2年度の文部省大型コレクション収書計画によって、本学の附属図書館に「新大陸関係地形図集成」が購入された。本図書館の一階の奥にある特殊資料室には地図資料コーナー(* 地図資料コーナーは、現在、1号館4階地図室にあります。)があり、世界のアトラスとともに、西ヨーロッパの5万分の1地形図約5,400枚がすでに所蔵されている。この地形図集成については、すでに谷治正孝教授が館報(Vol.9, No.1, 1985年) に詳しく紹介されている。今まで本学においては、附属図書館ならびに地図類の利用に最もかかわりの深い教育学部地理学教室が中心となって、地図類の収集に努めてきた。今回の地形図集は、こうしたコレクションをさらに充実するものとして大いに歓迎されるものである。

本地形図集成は、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニアの地形図類約10,000枚から構成されている。前述の西 ヨーロッパ地形図集成の場合には、縮尺が5万分の1の地形図に統一されていた。しかし、今回の収集では国によって縮尺が異なっており、その構成は以下のとおりである。アメリカ合衆国の全域については100,000分の1(1,281枚)、また一部地域については24,000分の1(6,002枚)、50,000分の1(124枚)、62,500分の1(1,035枚)、オーストラリアについては25,000分の1(535枚)、カナダは250,000分の1(913枚)、ニュージーランドは50,000分の1(248枚)、パプアニューギニアは100,000分の1(280枚)となっている。このようにさまざまな縮尺の地図になったのは、地形図の発行状況が国によって異なること、国の規模、使用頻度、予算等を考慮した結果である。

アメリカ合衆国の場合、24,000分の1や62,500分分の1などの縮尺は、25,000分の1や50,000分の1地形図に慣れた私たちになじみのないものである。 これはアメリカ人が長い間メートル法を使用してこなかったためで、62,500分の1の地形図は、1マイル(1.6km)をほぼ1インチ(2.54cm)で示したもの である。こうした縮尺はアメリカ人にとっては使い易いものなのである。もっとも、最近では5万分の1地形図の作成が始められているが、合衆国全体がカバーされるのはかなり先のことになろう。

地形図を収集するにあたって、国の規模も重要な要素となる。たとえばアメリカ合衆国のように大陸規模の国家では、大縮尺の地形図で国土をカバーするには膨大な量の枚数が必要となる。合衆国全体の24,000分の1地形図は、入手可能なものだけでも恐らく5万枚を大幅に上回るであろう。したがって、これだけを収集するには莫大な予算とスペースが必要になる。今回は、アリゾナ、 カリフォルニア、ネヴァダの3州に限って、24,000分の1、50,000分の1、62,500分の1の1地形図を収集できたが、これだけでも貴重な存在である。

日本では25,000分の1や50,000分の1地形図がかなり日常化しており、こうした地形図をおいてある書店も少なくない。しかし、アメリカでは地形図を購入することがなかなかむずかしい。私が以前に暮らしていたことがあったカリフォルニア州の大学町バークリーでは、さすがにカリフォルニアに関しては地形図をそろえている小さな地図屋があった。しかし、それ以外については、大学中央図書館の地図資料室に行ってコピーするほうが早かった。もっとも、一般の人々にとっては、大学で地理学を専攻でもしない限り、こうした地形図とは無縁な生活が一生続くわけである。アメリカ人にとってもっともポピュラーな地図とは、等高線の入っていないドライブマップなのである。全米の地図が入手できるのはほんの数箇所ということである。

ところで、「新大陸」という用語によってすぐ連想されるのは、来年がコロンブス新大陸に到来して500年目を迎える年であり、いわゆるラテンアメリカの国々の存在である。今回の地形図集成には、ラテンアメリカ諸国の地形図が含まれていない。これは「新大陸地形図集成」という標題からすればまさに重大な欠落と言えよう。しかし、ラテンアメリカの地形図を収集するのはなかなか骨の折れる仕事のようである。もう10年あまり前になるが、エクアドルを調査していた頃に、地形図を購入するために、その作成を販売を行っている軍の地図部門に出向いた記憶がある。ブラジルのような大きな国では問題はさらに深刻である。ここには、日本の国土地理院のように、地形図の作成を一括して行っている機関がない。ブラジル統計地理院、北東部開発庁、軍、サンパウロのような州政府などが、それぞれその管轄地域を対象に地図をつくっている。したがって、全国の地形図をある縮尺でそろえることがなかなかむずかしい。また、インフレが激しかったえい経済政策によって物価が凍結されたりして、地図の価格も大きく変動する。 昨年の北東部調査の時には、北東部開発庁の地図販売部で地形図の販売が一時停止になっていたこともあった。このような状況なので、日本でラテンアメリカの地形図を購入するにはスムーズにはいかないようである。しかし、今後、ラテンアメリカ関係についても、機会を見つけて収集していきたいものである。

日本人による海外の地域研究がさかんになっている今日、地形図類は地理学のみならず、さまざまな分野において基礎的資料として大きな意義をもっている。研究でも観光の場合でも、すでに訪問した地域、これから訪問する地域、あるいは将来訪問してみたいと思っている地域の地図をながめると、いろいろな事がわかっていきて実に楽しいものである。また、さまざまな国々の地形図を比較してみると、色調、等高線、一葉の範囲などにお国柄がみられておもしろい。今回収集した地形図や前回の西ヨーロッパの地形図を皆さんに大いに利用してもらいたいものである。

現在、新大陸関係地形図集は、4階の資料室で整理がほぼ終了し、地域ごとに地形図用キャビネットに収められている。1階の特殊資料室がすでに満杯状態にあるので、近い将来には、このように分散した地形図資料を一か所に集めることが検討されているとのことである。欧米では地図専用図書館が多く、地図の収集と管理が進んでいると聞く。また、アメリカでは大学の中央図書館が非常に充実しているが、どこでも地図資料室が完備され、コレクションの多さと使いやすさ には驚かされる。地形図からドライブマップやイラストマップにいたるまで、地図は日本人にとってかなり身近な存在になっているとはいえ、地図の収集においては、日本はまだまだ学ぶところが多い感じが強くする。高等教育機関において地図学の研究と教育のシステムも確立されていないし、研究者も少ない。故野村正七学長はそうした数少ない地図学者のひとりであり、本学における地図やアトラスの収集に努められた。本学中央図書館においても、地図資料室(マップルーム)といったものが将来できれば、利用者にとってたいへんに便利である。今後もこうした地図関係のコレクションをますます充実させていきたいものである。

(教育学部助教授)


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