附属図書館トップ図書館紹介図書館報図書館報総目次


資料紹介II
『日本占領GHQ正史』(英文)について
松元 宏
 
第二次大戦後の連合国軍による日木占領から45年を経た現在,日本占領期を対象にした研究への関心が大いに高まっている。その理由は,戦後半世紀近い時が過ぎ同時代が歴史分析の対象に位置づけられるようになってきたこと,またそれとかかわりつつ,80年代後半から顕著になってきた日本社会の諸問題をその直接の出発点である戦後の占領期に遡って検討しようとすることにある。1945年8月−52年4月の敗戦と占領は日本社会に大きな変革をもたらしたが,当時の混乱状況や秘匿主義によって,研究の索材となる記録類や一次資料が十分残されてきたとは言い難い。

このような事情の下で,『日木占領GHQ正史』全55巻は第一級資料である。本書は1951年日本占領の直接実行者であった連合国最高司令部(GHQ)が自らの占領記録を座下の民問史料局(CHS)の手で編纂させた口本占領史の復刻である。オリジナルは米国国立公文書館が所蔵するマイクロフィルムGHQ/SCAP,HISTORY OF THE NONMILITARY ACTIVITIES OF THE OCCUPATION OF JAPAN,1945‐1951(日木占領の非軍事活動史)で,編纂当初は全巻「部外秘」扱いとされ,1965年一部を除いて公開,1971年全面公開されたものである。したがって当時からマイクロフィルムによる利用は可能であったわけだが,今回全巻が刊行され手近で利用できる便益は計り知れない。

全55巻の本書はB5判で総頁14,000余の膨大なボリュームであり,またその内容は政治・行政・法律・教育・文化・社会・経済・産業など占領期日本の全分野に及ぶモノグラフィーの集積である。しかも個々の論文にはGHQの特権を生かした部内資料が多く使われている。第1巻には荒敬氏による全巻にわたる解説解題が日木語で付されているので,初めての利用者はまずその文を一読されると便であろう。全55巻の構成は以下のようである。

第1巻 序。第2巻 占領行政。第3巻 物資と労務の調達。第4巻 人口。第5巻 B・C級戦犯裁判。第6巻 公職追放。第7巻 憲法改正。第8巻 国家行政の再編。第9巻 立法責任の発展。第10巻 選挙制度改革。第ll巻 政党の発展。第12巻 官吏制度の再編。第13巻 地方白治改革。第14巻 司法・裁判制度の改革。第15巻 警察と治安。第16巻 外国人の取扱い。第17巻 出版の自由。第18巻 ラジオ放送。第19巻 劇場・映画。第20巻 教育。第21巻 宗教。第22巻 公衆衛生。第23巻 公共福祉。第24巻社会保障。第25巻 賠償。第26巻 外国人の資産管理。第27巻 日木人の資産管理。第28巻 財閥解体。第29巻 経済力の集中排除。第30巻 公正取引の促進。第31巻 労働組合運動の発展。第32巻 労働条件。第33巻 農地改革。第34巻 農業協同組合。第35巻 価格・配給の安定食糧部門の計画。第36巻 価格配給の安定一非食糧部門の計画。第37巻 国家財政。第38巻 地方自治体財政。第39巻 通貨と金融。第40巻 法人企業の財政再編。第41巻 農業。第42巻 水産業。第43巻 林業。第44巻 不燃鉱業の復興。第45巻 石炭。第46巻 電力・ガス産業の拡大と再編。第47巻 石油産業。第48巻 重工業。第49巻 繊維工業。第50巻 軽工業。第51巻 日本の科学技術の再編。第52巻 外国貿易。第53巻 陛上・航空運輸。第54巻 水上運輸。第55巻 通信。
(荒敬「解説」の日本語訳による。)

各巻の章立て,記述の仕方,対象時期はまちまちであるが,敗戦前の状況を加えた一部を除けば,多くが1945年の敗戦から1951年までを対象に,それぞれの分野における占領政策の実施過程とその成果を叙述するものである。日木占領下で推進された戦後改革・民主化の全体像を把えるために,まず推進者による意図と結果に対する評価とを知ることは重要である。もちろん利用に際して占領軍の視点による「正史」記録であることを忘れてはならないが,本書が現代史あるいは戦後日本研究の基本文献・資料としての価値を損なうものではない。私は本書が本学図書館の蔵書に加えられたことを喜びつつ,多くの利用者から閲読されることを希っている。

(経済学部教授)


附属図書館トップ図書館紹介図書館報図書館報総目次