附属図書館トップ図書館紹介図書館報図書館報総目次


フランス国立図書館見学記

関ロ欣也

パリのフランス国立図書館(Bibliothque natio‐nale de France)は1368年に創立され,ロンドンの大英図書館と共に蔵書1,000万冊級の世界の大図書館である。その中核の閲覧室と書庫部分は19世紀フランスの先駆的建築家アンリ・ラブルーストの設計(1857〜1867)だが,日本ではその建築構成はあまり紹介されず,最近ようやくフレッチャーの『建築史』第六版に付図が収録された。

さて私は去年1996年夏の8日間,講義の準備のため,北フランスのロマネスク・ゴシック大聖堂を訪れ,その最後の7月25日にパリ図書館めぐりをした。目的は図書館の閲覧空間の意匠を見るためであった。

この図書館はルーヴル宮北側の南北道リュ・デゥ・リシェリウに面した都市建築で,リシェリウ側の要所に変化をつけたルネッサンス風のものであった。私たちは朝早くいって中庭に入り,大閲覧室前の廊下ホールで座席票の交付をまったが,やがて外国人は別に並ぶようにとのアナウンスがあり,別の列に入ると,やがて3人1組で1人ずつ酒落たパーティションに入り,パスポートを提示してからレファレンスサービスをうけた。司書の女性は上品で司書の職務に熟達していると見うけられた。この外人への独自なサービスは日本ではまだ実施されていず,大変参考になった。私は担当のマダム・マルタン・ドゥ・グロットさんよりこちらの来意や希望等を親切に質問され,閲覧室をみたいこと,日本ではまだこの図書館の平面図が知られていないために設計図を見たいこと,東南方約5キロのトルビアックに建設された新フランス国立図書館の手引がほしい旨を申出た。こうして私は妻と共に閲覧室の座席票(紙製)を手に閲覧室に入り,また主としてA4三つ折のいかにもデザインの国・フランスらしい格好のよい各種13点のカタログをいただいた。

閲覧室は館の中央に位置し,集中式で大変広くおよそ33m四方あり,その奥に三日月形の広い出納台でへだてて閲覧ホールより相当広い書庫がある。また閲覧室の右側は中庭式3階建ルネッサンス風の本館で,左奥にコの字形平面の地図・図面・版画館が接統している。

さて閲覧室はただ広いだけでなく,空間を3行3列に分割して上にふわっと9つのドーム(天蓋付)をあげ,それを16本のほっそりした鋳鉄の柱でうける。このデザインは薄茶の洋傘を9つ開いたようで,ドーム建築に本来的な重厚な意匠を反対の軽妙な意匠に転換している。それは部材寸法の細い鉄骨造を用いているからで,設計者ラブルーストの独創である。そして彼はここにその時代最祈の図書館空間を創造したのである。

また閲覧ホールの3方の各面(ホールからの出入口を除く)に4段のバルコニー式書棚(1部力タログ等あり)を設け,その上の3連アーチにはセルリァンプルーの空を主とした樹木の壁画が描かれている。閲覧机の配置は左右2区に分れ,左区には灰色のノート形パソコンが集中しておかれていた。なお入退館管理は入口のボックスで机の番号をチェックするだけであった。閲覧ホールの奥は出納空間で,上には半楕円ドームが上り,一番奥の倉庫入口を除く壁面は閲覧ホールと一連のバルコニー式書棚である。そして書庫入口には一対のカリアタイド女神像がある。書庫には入らなかったが,写真をみると中央吹抜の鉄骨造4階である。

閲覧室を一見して外に出,左上の地図・図面・版画館の2階にゆき,ラブルーストの原図を尋ねたが,担当者が休みで,図面はみれなかった。ここにはキャノンのマイクロリーダーによる図面閲覧と書見台付大型机による原図閲覧等が行われ,現に若い女性がマイクロリーダーで建築の立面・断面を調べていた。なお閲覧ホール左上の楕円ホール(定期刊行物ホール)ではアルメニア美術展か行われていた。

このフランス国立図書館は図書1,000万冊(うち150万冊稀覯本),定期刊行物35万コレクション,地図・図面65万点,手稿本17万冊,古銭等57万点,楽譜210万点,録音とビデオ100万点,写真等l04万5千点を蔵し,まさに総合的に図書を中心とした文字・言語に関する人類遺産が保存されている。

所で,フランス国立図書館はコレクションの急速な増加に対応するため新館建設を計画し,1988年7月,F.ミッテラン大統領は「とても大きく全く新式」の図書館創造を決定した。そしてノートル・ダム東南方2.7キロのトルビアックの地(ドオステリッツ駅の近傍)にD.ペローの設計により大規模な新館が建設され,去年12月に一般読書室が開館し,今年秋に研究図書室が開館される。その特色は矩形敷地の四隅にたつ20階のL形建物(うち12階書庫)と中央の広い林の中庭で,閲覧室は部門別に区分されて中庭に面する。そしてリシェリウの旧館は特殊部門の手稿,版画,楽譜,古銭,地図,図面,視聴覚部門を守る一種の貴重書図書館になる。(1997.2)

<附属図書館長・工学部教授 せきぐち きんや>


附属図書館トップ図書館紹介図書館報図書館報総目次