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資料紹介
東寺百合文書
有光友學
このたび本図書館に架蔵された「東寺百合文書」とは,京都の東寺で組織的に収集・保管・保存され,現在,京都府総合資料館に所蔵されている同名の古文書群の写真複製本である。

東寺(正式名称は,金光明四天王教王護国寺)とは,周知のようにJR京都駅に出入りする電車の車窓からもその南側に望める五重塔で知られるお寺で,西寺(廃寺)と共に平安京建都の際に宮都鎮護のため羅城門の左右に創立され(794年),そのご真言宗を開いた空海に与えられ(823年),真言密教の修学根本道場として長い歴史を刻んできた寺院である。現在も,古義真言宗東寺派総本山として宗派の中心的寺院であり,弘法太子信仰のメッカとして,多くの参詣者が訪れている。また,数多くの価値ある建造物や仏画・仏像を有することから,常に見学者や観光客で賑わっている。しかし,このお寺が歴史上最も権勢を誇ったのは中世の時代であり,鎌倉時代から南北朝にかけて,西日本を中心として約30カ国70数箇所に及ぶ荘園の上級領有権を有していた。そして,寺院内各種機関や荘園内部で作成された,仏事・法会の経宮や,荘園の支配・管理にかかわる文書が,『東寺文書』(総称)として,幾多の災禍を受けながらも今日まで伝来されてきたのである。それらは平安時代初期から江戸時代初期にわたっており,未だ正確な点数は不明であるが数万通に及ぶといわれている。それら『東寺文書』は,現在は種々の経緯を経て,ここに紹介する「東寺百合文書」と,東寺に現存する「東寺文書」,さらに京都大学文学部博物館に所蔵されている「教王護国寺文書」などに分かれている。

『東寺文書』の中核部分を占める「東寺百合文書」は,およそ4万通ともいわれており,すべて国の重要文化財に指定されている。「百合(ひゃくごう)」とは,江戸時代前期に加賀藩5代藩主前田綱紀が,この文書を整理し目録を作成した上で書写させた際に,百の桐箱を寄進したことにより名付けられた名称である。それぞれイ・ロ・ハといった片仮名と平仮名の符号(数函は,漠字一字の符号である)が付けられており,現在も箱ごとに整理され,番号が付されている。本図書館に架蔵された写真複製本は,1984(S59)年に全学研究整備費により購入された片仮名の部分A5版256冊[請求記号:210.08/TO]と,1994(H6)年に大型コレクションの採択により購入された後半の平仮名の部分A4版213冊[210.088/TO]とであり,いずれも簡易製本の形で中央図書館2号館の1階2層書庫に配架されている。

なお,『東寺文書』を部分的に書写したものが,金沢市図書館加越能文庫(松雲公採集追締類纂)・国立国会図書館(自河本)・小浜市立図書館(東寺古文零聚)・国立公文書館内閣文庫(桑名文庫本)・京都大学文学部博物館(阿波国文庫本)・宮内庁書陵部(東寺文書)などにそれぞれ所蔵されており,東京大学史科編纂所には,影写本が架蔵されている。そして,活字本としては,「東寺百合文書」が,東大史料編纂所より『大日本古文書』の家わけ「東寺文書」[210.08/10]として順次刊行されているが,1925(T14)年に始まって,現在漸くその1剖強の9冊が出版されているにすぎない。また,京都府総合資料館から『図録東寺百合文書』[2l0.08/ZT]が3冊刊行されており,比較的生の姿を見ることができるが,しかしそれは全体のごく一部でしかない。なお,同資料館からは『東寺百合文書目録』全5冊[210.03/KYT]も出されており,一応その全貌をつかむことはできる。また,前記「教王護国寺文書」(約3000通)は,京大文学部国史研究室より同名で11巻[210.08/27]にわたって翻刻されており,全容を知ることができる。

以上,『東寺文書』の由来と現況を述べたが,「教王護国寺文書」以外,それらを研究史料として利用しようとするならば,東寺および京都府総合資料館所蔵の原物にあたる必要がある。しかし,それらはいずれも重要文化財であり,一般に手軽に閲覧することはできない。そこで,同資料館が,写真複製本の頒布を10数年前から行っているわけであるが,その分量の多さ,ひいては経費の掛かることより,誰でも何処でも手に入れられる状況にはなく,研究者にとっては,その購入は垂挺の的であった。本図書館が,二回にわたって,結果としては不揃いな製本の形となったが,完備できたことは,誠に有意味のあることといえよう。

本文書は,上述したように,日本中世史なかんずく荘園史研究にとって,不可欠であるばかりか,仏教史,言語史,文学史,教育史などの分野においても有効利用できるものである。この文書が,いかに日本中世史研究にとって必要なものであるかは,鎌倉時代末期,元寇のため疲弊した御家人の経済を救済するために出された,有名な永仁の徳攻令(売却・質入した所領を無償で取り戻すことができる法令。1297年発布)が,唯一全文の知れるのは,この「東寺百合文書」(京画1)に見出されるもの以外ない,という一事をとってもお分りいただけるであろう。以上,豊富にして多彩な内容をもつ本文書について,その外面的事項を紹介するにとどまったが,中世文書が如何なるものであるか,一度ご覧いただければ幸いである。

<教育学部教授 ありみつ ゆうがく>


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