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資料紹介I
 

ブリストル大学所蔵演劇史文献

鈴木龍一
今度附属図書館に備えられることになった資料は,上記のコレクション中からそのPart IとPart IV,即ちカラー・マイクロフィッシュに複製された約2200件の劇場用衣装プラン,装置プラン,模型舞台と,オールドヴィック劇場に関する資料である。

英国に於ける近代の演劇教育は,有名なロンドンのLAMDA(1861)やRADA(1904)を筆頭にする各種の演劇学校で行なわれているのが主流だが,20世紀初頭のアメリカに続いて,1947年にブリストル大学に初めて演劇学科が設けられて以来,今日では20を超える大学に演劇学科があり,演劇教育の一翼を担っている。ブリストル大学の演劇学科はプリストル・オールドヴィック劇場と密接に連携している。1960年に英国の大学としては初の演劇教授の講座が設けられたのもブリストル大学であった。

この学科設置の基本理念はドラマを文学の一分野としてではなく,パーフォーミング・アーツの一つとして研究することであった。この学科は実践活動と同時に,1951年から各方面の援助を受けて蒐集活動を始め,有名なacto-managerで,前記のRADAの創設者でもあるピアボーム・トリー(1853一1917)のコレクションや,オールド・ヴィック劇団の貴重な資料をそっくり保存することになった。(今回購入分にはPart II -- トリーの娘が集めた壮大なコレクション -- は残念ながら含まれていないが,彼のHaymarket劇場やHer Maiesty’s劇場でのシェイクスピア上演時の精巧なプロンプター用台本は有名である。)Part Iに含まれる78名の美術家,デザイナーの中には,Alan Tagg,Michael Knight,Percy Anderson,Cecil Beaton,Gordon Craig,Alan Barlow,Ann Curtis,Roger Furse,Leshe Hurry,Lucas Slade.Percy McQuoid,Byam Shawらがいる,いずれもBeerbohn Tree,Royal Shakespeare Co”Glasgow Citizens,Covent Garden,His Majesty’s,Lyric,Bristol Old Vic,Aldwych,Haymarket,Phoenixなどの劇団・劇場で働いた人々である。

Part IVを構成するのは,新閲の切りぬき,プロンプター用台本,書簡,プログラム,収支計算書等で,プリストル大学演劇コレクションの中で重要な位置を占めている。オールドヴィック劇場は1818年創設されたが,1880年にMiss Emma Consの経営に移り(当初の監督は後にエリザベス朝演劇協会を創始したウイリアム・ポェル),更に1912年にはその姪Lman M.Bay1is(1874−1937)が継承した。1914年から23年にかけて第一フォリオによるシェイクスピア全公演を実行し,以来最低の料金で最高の芸術を提供することをモットーにしてきた。1929年のJohn Gielgudを初めてとして,Leurence Olivier,Ralph Richardsonが加わっって全盛期を迎えた。1941年に爆撃で閉鎖,戦後1950年に再開された。1953年から58年にかけてマイケル・ベントール演出で第一フォリオによるシェイクスピアの37作品の第二次上演が行なわっれた。1961年にオリヴィェを総監督にした国立劇団は当分の間オールドヴィック劇場を本拠とすることになり,同劇場は1963年6月で閉鎖された。同年10月新しい国立劇団はオールドヴィック劇場でHamletの公演で旗揚げし,1976年に近くのSouth Bankに竣工したNational Theatreに移るまでここで活動を統けることになる。

このコレクションは特に完全な資料の残っている1944年から63年までの同劇場上演作品研究には多大の頁献をすることになろう。実際の舞台を観る機会が少なく,舞台に関する諸資料に接する手段を持たぬ研究者にとって,この貴重な資料をマイクロフィッシュのかたちで身近にできるのはすばらしい朗報である。
(教育学部助教授)


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